父も母も他界して10年ほどが経つ。
晩年、母は齢を重ねるにつれ認知症が少しずつ進んでいった。
一方で父は老人特有の同じ話を何度もクドクドと話すことが多くなった。
父が亡くなる数年前から二人は同じ部屋で布団を並べて寝ていた。
父は、毎晩眠りにつく前、母に若い頃の話や村の助役時代の話をしていたようだ。
本人は話す内容は忘れないのに、誰に話したかは忘れてしまうらしく、何度も何度も同じ話をしたと思う。
ところが、母は認知症のため、前日に聞いた話はすっかり忘れている。
毎晩新鮮な驚きをもって「ほう! ほう! そんでどうなったんよ?」
と素晴らしい聞き役を務めたのである。
こんな理想的な夫婦の会話があるだろうか。
老いは時として残酷だが、父と母の会話のような組み合わせの妙を思い出すたび、それは老いに対する神様の粋な計らいのような気がする。