明治28年生まれの祖母は、忘れ物をしたり、うっかりしたことがあると、よく
「ワシは、ハンドクさんやでなぁ」と笑っていた。
「ハンドクさん」というのは一体誰なのか、どういう意味なのか、長いあいだ分からずにいた。
ある時、釈迦の弟子に周利槃特(しゅり・はんどく)という人がいたことを知った。
周利槃特は、釈迦の弟子の中でもっとも愚かで頭の悪い人だったと伝えられているが、「塵を払い、垢を除く」という短い教えをひたすら実践し、掃除を続けることで最終的に悟りを開いたという。
自分の名前さえ忘れるほどだったため名札を首にかけていたというエピソードもあり、彼の墓からミョウガが生えてきて、名を荷うから「茗荷」と書くようになったとか、ミョウガを食べると物を忘れるなどの俗信も残っている。
天才バカボンの「レレレのおじさん」のモデルになったとも言われ、地道な努力と純粋な信心の象徴とされている。
祖母はおそらく、お寺での説教の中で周利槃特のことを知り、
「私もハンドクさんみたいなもんだ」
と思ったのだろう。
人は誰でも愚かしく、聖人のようには生きられない。
しかし、日々を自分なりに精一杯誠実に生きることこそが、一番大切なことなのだと、しみじみ思う。